クリニックに退職金制度は必要?
本記事は「クリニックに退職金制度は必要?」について、経営コンサルタントの金田が医師のために記載した文書です。
より詳しく知りたい先生はこちらからお問い合わせください。
<目次>
- 退職金制度の必要性
- 退職金制度を導入するメリット・デメリット
- 退職金制度の種類と積み立て方法
- まとめ
1. 退職金制度の必要性
結論から申し上げますと、退職金制度は法律上の義務ではありません。
したがって、必ずしも導入が必要なものではなく、退職金制度がなければ、退職金の支払い義務も生じません。
そのため、退職金の支給は、先生方の厚意によるものが多く、長年貢献してくれたスタッフへの感謝の気持ちを示す、あるいは給与の水準を退職金で補填し、スタッフの退職後の生活を保障するという目的があります。
くわえて、何年勤務したら退職金を支給しなければならないかという決まりもありませんが、勤続年数を指標に支給対象にするクリニックもあります。
一般的な企業では勤続年数が長くなるほど金額は大きくなる傾向にあります。
厚生労働省の2023年就労条件総合調査によると、医療・福祉業界全体では75.5%が退職金制度を導入していますが、この数字には大規模病院も含まれており、個人経営のクリニックでは導入していないケースも珍しくありません。
ではなぜ70%を超える企業や医療機関が退職金制度を導入するのでしょうか。
次のメリット・デメリットについてご説明いたします。
2. 退職金制度を導入するメリット・デメリット
先述した通り、退職金制度の導入は必須ではありませんが、経営的なメリットがあります。
①採用応募者へのアピールポイント
退職金制度を設けていないクリニックは、求職者から、将来を見据えて安心して働ける職場として認識されにくい可能性があります。
一方、退職金制度を導入しているクリニックは、安定した経営基盤を持ち、従業員の将来を真剣に考えているという印象を与えやすくなります。
また、既に退職金を支給している場合でも、退職金制度を求人票に記載することで、制度設計や運用にかかるコストを抑えつつ、福利厚生が充実したクリニックであることをアピールできます。
② 従業員の定着を促進する
一般的な退職金制度では、月給と在籍年数を関連付けて支給額を定めています。
特に、在籍年数が長くなるほど支給額が増加する仕組み(例えば、勤続年数に応じて乗じる係数を上げるなど)にすることで、従業員が長く働くことへのモチベーションにつながります。
従業員の頻繁な入れ替えは、求人費用の増加や引き継ぎ期間の人件費上昇、生産性低下など多くの負担を伴います。
そのため、従業員が長く働いてくれることは、退職金制度導入の大きなメリットと言えます。
一方でもちろんデメリットもあり、導入を検討する際に考慮する必要があります。
①コストが発生する
退職金制度がなければ支払う必要のないお金を支給する場合、追加コストとなります。
例えば、30年勤続で200万円の退職金を支給する制度があるクリニックで30歳の方を雇用した場合、雇用した時点で将来的にコストがかかる可能性が発生することとなります。
②経営状況に関わらず支払い義務が生じる
制度を導入した時と実際にスタッフが退職する時で、クリニックの経営状況が変化する可能性があります。
適用タイミングによっては、競合の増加などで収入が減少しており業績が悪化していても、業績が好調な時に導入した制度に則って支払い義務が発生します。
また、制度導入の結果、スタッフが長く働いてくれた場合、先生ご自身が高齢のため閉院しようとしたタイミングで、全従業員に対して一人当たり数百万円といった多額の退職金支払いが同時に発生するリスクも考えられます。
そうしたリスクを回避するために、次に退職金制度の種類と積み立て方法についてご説明いたします。
3. 退職金制度の種類と積み立て方法
まず、退職金制度にもいくつかの種類があります。
(1)退職一時金制度
最も一般的なタイプで、スタッフの退職時にまとめて支払われます。
支給額は、勤続年数や役職、功績などによって決定されます。
例えば、「基本給と勤続年数」を基準として考えるケースや貢献度や自己都合退職かどうかで先生方で金額を調整するケースもあります。
(2)企業年金制度
退職後、一定期間または生涯にわたって定期的に支給される制度です。
支給開始は規定の年齢からとなります。企業年金制度の場合、掛金が「公的年金等控除」の対象となり、税金が安くなるメリットがあります。
企業型確定給付年金(DB)と企業型確定拠出年金(DC)の2種類があります。
・企業型確定給付年金(DB)は、退職時に受け取る給付金の額があらかじめ決まっており、企業側が年金資金を運用し、給付額を保証する制度です。
・企業型確定拠出年金(DC)は、企業が掛け金を拠出し、従業員自身が運用商品を選んで運用し、給付額は運用成果によって変動する制度です。
一般的には、クリニック側で管理をせず、スタッフに運用を任せることができる企業型確定拠出年金(DC)を導入しているクリニックが多いです。
(3)前払い制度
退職時ではなく、事前に決められた金額を毎月の給与や賞与に上乗せして支払う方法です。
この場合、基本給を高く設定することになります。
次に、将来の支払いに備え、計画的に積み立てる方法についてご説明いたします。
(4)中小企業退職金共済(中退共)
国が用意している退職金制度で、加入すると国からの助成金を受けられるメリットがあります。
掛金はスタッフごとに選択可能で、個人事業主の場合は全額経費、法人の場合は全額損金となります。
ただし、スタッフが1年未満で退職した場合、クリニックに掛金は戻ってきません。
(5)生命保険の活用
退職金積立を目的とした生命保険を活用する方法です。
契約形態によっては、保険料の一部または全額を損金にできるメリットがありますが、返戻率が高い商品は掛金も高額になる傾向があります。
(6)企業年金
先述した確定拠出年金や確定給付年金なども、積み立てによる方法と言えます。
これらの方法を活用することで、将来の支払負担やリスクを軽減すると同時に、本来退職時まで経費計上できなかったものを前倒しで計上できるというメリットが得られます。
4.まとめ
医療業界では人材不足が深刻化しており、スタッフの採用や定着はクリニック経営にとって重要な課題です。
退職金制度は必須ではありませんが、採用活動でのアピールポイントとなり、スタッフの定着を促す効果も期待できます。
一方で、コスト増や将来の支払い義務といったデメリットも存在するため、ご自身のクリニックの経営状況、スタッフ構成、そして将来的なビジョンを踏まえ、退職金制度を導入すべきか、あるいはどのような制度が最適か、メリット・デメリット両面から慎重に検討することが重要です。
本記事について詳しく知りたい先生、またはクリニック経営についてのご相談はこちらからお問い合わせください。
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